令和2年4月施行改正民法と賃貸借契約の更新 ~とりわけ連帯保証契約の更新についての注意点~
2020年4月10日
弁護士 鈴木洋平
- 改正民法が適用されるのは令和2年4月1日以降に「締結」された契約です。
- 賃貸借契約と,連帯保証契約,はそれぞれ別々に「締結」日を考え改正民法の適用の有無を考えます。
- 更新の場合には,更新契約日の締結日が基準になります。
- 賃貸借契約
- 法定更新については,令和2年4月1日以降に法定更新された場合でも,改正民法は適用されません。
- 法定更新とは,契約期限が切れていてもそのまま利用を継続した場合,借地借家法26条により期限の定めのない賃貸借契約として更新され存続するというものです(合意ではなく法律に基づく更新なので改正民法の出番がありません)。なお,賃貸人から更新を拒否するには,正当事由を要するのは改正前と同様です。
- 自動更新については,令和2年4月1日以降に自動更新された場合,改正民法が適用されるというのが法務省の立法担当者の見解です。
- 自動更新とは,例えば「契約期間は〇日までの2年間とする。ただし,期間満了の6か月前までに当事者のいずれからも契約を終了させる旨の通知がないときは,契約を2年間更新するものとし,以後も同様とする。」とする特約に基づく更新です。この場合,改めて更新契約を締結しなくても,契約期間満了時にこの更新特約をもって,賃貸借契約は2年間ずつ自動更新されることになります(借地借家法26条により期限の定めのないものとなるのではありません)。更新料の定めが入れてある場合には,2年間ごとに更新料を要求できることになるのが法定更新との違いです。
※令和2年3月31日までに締結された賃貸借契約に自動更新の特約が付いている場合,改正民法「施行後」に自動更新日を迎えても新たに契約を締結するのではないのですが,「施行後」に自動更新の特約に基づいて契約を継続するとの不作為(なにもしないでいること)が,「施行後」に更新を合意したと解釈して,改正民法を適用するというのが立法担当者の見解です(法務省一問一答383頁)。ただ,施行前に締結した自動更新特約の効力が施行後に生じただけで,旧民法を適用するという解釈もあり得ると思われます。
- 法定更新については,令和2年4月1日以降に法定更新された場合でも,改正民法は適用されません。
- 連帯保証契約
- 普通賃貸借契約が更新された場合(更新契約,法定更新,自動更新のいずれをも含む),「反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情のない限り,保証人が更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを負う。」とするのが最高裁判例(H9.11.13)です。つまり,改正民法施工前に締結された連帯保証契約の場合,施行後に賃貸借契約が更新された場合でも,新たに連帯保証契約を締結しなければ施行前の連帯保証契約の効力が生じたままになり,施行後は,賃貸借契約は改正民法,連帯保証契約は旧民法が適用されることになります。※この場合,連帯保証人の誤解がないように,賃貸借契約が更新されたこと,連帯保証契約は改めて締結し直さないが上記最高裁判例により引き続き維持されることを通知した方が丁寧です(なお,定期借家や保証期間の定めがあるものなどは反対の趣旨をうかがわせる事情になり,保証契約の効力が継続しませんので注意して下さい)。
- 他方で,改正民法施行後に,改めて連帯保証契約を締結し直した(更新契約を締結した)場合には,連帯保証契約にも改正民法が適用されます。改めて連帯保証契約を締結しなおさない方が法的には優位です。
- 施行後に締結された保証契約についての改正民法の内容
- 「個人」が保証人になるときは,極度額を定めなければ無効になります。
- 「個人」が保証人になるときは,借主が死亡した場合,死亡後の賃料と死亡後に発生する原状回復費用について,保証人が責任を負わなくなります(死亡により保証債務の元本が確定するといいます)。※借主の死亡前に借主の善管注意義務違反による損害賠償(原状回復費用も含む)は,死亡前のものと解釈する余地がありますが,解釈の余地があり,今後の判例の集積を待たねばなりません。
- 「個人」が保証人になるときは,貸主が保証人に対し強制執行等した,保証人が破産した,保証人が死亡した,場合,そのとき以降に発生する債務について保証人が責任を負わなくなります(保証人が死亡する前に発生した滞納賃料等の債務は保証人の相続人に引き継がれます)。なお,旧民法では,保証人が死亡した後は,その相続人が連帯保証人の地位を引き継ぐとされ,保証人の死亡後に借主が賃料を滞納した分も相続人が保証するものとされていました(大審院昭和9年1月30日判決)。
- 情報提供に関し以下の3点の改正があります。
- 「個人」が保証人(債務者の委託の有無を問わない)であるときは,借主が賃料債務を遅滞したとき,2か月以内に保証人に通知しないと,保証人へ遅延損害金(賃料そのものではなく賃料に対する遅延損害金部分に限ります)の請求ができなくなります。
- 「個人」が保証人(債務者の委託がある場合)で,かつ「事業用」の賃貸借契約を締結する場合,借主の財産・収支・他の負債及び他の担保の状況,を保証人に情報提供する必要があります。違反した場合で,保証人が誤解していた場合には,保証契約を取り消されることがあります。
- 「個人」「法人」が保証人(債務者の委託がある場合)であるときは,保証人から借主の賃料債務の履行状況について情報開示請求があったときは,その賃料の滞納状況等の情報を保証人に提供しなければなりません。違反した場合には,損害賠償請求の対象となります。
- 保証人に対して履行請求しても,請求の効果が借主には及ばないことに変更されました。旧法と同様に及ぶようにしたい場合には特約を入れる必要があります。
※なお保証契約を公正証書にしなければならないものは,事業用の「貸金」に関するもので,賃貸借契約への適用はありません。
以上