中国の裁判IT化事情
2018年9月27日
日本弁護士連合会の前執行部は,「卒業旅行」と称して,近年の慣例に従い,本年9月1日から8日間,中国(北京と寧夏)を訪問した。
私も,日本弁護士連合会事務次長として2016年1月1日から本年5月31日まで民事司法改革等を主に担当していたことから,このたびの訪中に参加した。中華全国律師協会(日本の日弁連に相当)をはじめ,全国人民代表大会常務委員会法制工作委員会(日本の立法機関に相当)などとの交流・意見交換など,非常に刺激の多い視察であったが,その中でも特に印象的だった最高人民法院(日本の最高裁判所に相当)について,少し触れたい。
部屋正面の大きなスクリーンに,中国全土の法廷のリアルタイムでの様子が映し出され,中国国内はもちろん,日本を含む世界各地で誰でもインターネットで公開されているとの説明であった(http://tingshen.court.gov.cn/)。2013年からプラットフォームの構築を始めたとのことで,わずか5年でここまで来ているのかと,参加者はみな等しく衝撃を受けた。
さらに驚いたのは,裁判所の情報管理システムは主だった金融機関ともネットでつながっており,判決に基づき,銀行口座から直接回収できる仕組みとのことだった。そして,判決の不履行者は,政府等からの各種生活上の保護制度も受けることができなくなり,飛行機や新幹線のチケットも買えない上に,各種信用情報にも掲載されるそうである(上記ホームページには,なんと,不履行者の氏名まで掲載されている!)。
これに対し,日本の民事執行制度はあまりにも実効性が弱く,せっかく苦労して判決を取得しても容易に執行逃れができてしまう。そのため,制度改正が議論され,法制審議会でつい最近まとまった要綱案には,第三者から債務者の財産に関する情報を取得する制度の創設や,財産開示に協力しない債務者への制裁強化などが盛り込まれ,一定程度評価はできるものの,権利救済の観点からはまだまだ道半ばと感じざるを得ない。裁判のIT化そのものについても,日本では法曹三者を含めた議論がまだ緒についたばかりであって,韓国やシンガポールなどの近隣アジア諸国にもかなりの遅れをとっている状況である。
中国については,その政治体制を含め,いろいろな意見があろうが,裁判のIT化のスピード感・民事執行制度に関する徹底ぶりについては,日本にとっても大変参考になるのではなかろうかと感じた次第である。
2018.9.27 弁護士 二川裕之